月別アーカイブ: 2020年1月

『観光亡国論』アレックス・カー

著者のAlex Kerr氏とは面識があり、何より共感するところが多いので改めて読み直しました。観光学という視点で物事を俯瞰的に捉えた時に、ポストモダン以降、このような個人客の流れが増加することが予測できたはずで(参照:『現代観光学 ツーリズムから「いま」がみえる』)、さらにそれが世界の他の都市で顕著に表れていたため、参考にすることは十分可能であったはずです。日本が観光客の爆発的増加に対して無策であったことに嘆きと憤りを感じます。

特に京都で活動する通訳案内士として、現場を見ればオーバーツーリズムと呼ばれる状況は深刻です。正確には、有名観光地への一極集中でしょうか。さらに、日本独特のマナーの啓蒙が遅れ、苦情に繋がるケースがどうしても目につきます。ただしそれは、訪日されるお客様の問題だけではなく、啓発が後手にまわった影響が大いにあるでしょう。また、受け入れ施設側のマネジメントがされないまま、訪日客を増やせるだけ増やそうとした結果とも言えます。

私が常々思うガイドが存在する意味は、お客様にそれとなくマナーを伝えることも重大な責務だということです。どうしてここでは写真を撮ってはだめなのか、どうして階段に座ってはいけないのか。大声で話していいのかどうか。
日本人からしたら「当たり前」と思うことでも、文化が違えば当然「当たり前」が違います。まれに「日本ではこのようにするのがスマートなマナーだから」とお伝えして「なんて窮屈なの!」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、そのような方にこそ快適にご旅行いただけるよう、丁寧にご対応し、配慮することが必要でしょう。
万が一、ガイドがついておきながらマナー違反を犯すようであれば、ガイド失格、少なくとも通訳案内士としては言語道断と私は言い切ります。観光地について話すだけがガイドではありません。

一方で、ガイドのついていない個人客のお客様に対しての啓蒙についつい「撮影禁止」「飲食禁止」などの看板の設置を考えがちですが、功を奏していないことも結果として、もしくはデータとして得られているのではないかと想像します。何より、異国の地で高揚した気分の中で、じっくり立て看板を見ることなど、さらに自分の言語でない看板を見ることなど、ストレス以外の何物でもなく現実的ではないものです。

幸いなことに、つい最近、忍者と黒子が出演するマナー啓発ビデオを政府主導で作成したと耳にしました。駅のビデオパネルや、飛行機内など、目に触れるところで積極的に流していければ、自然と「郷に入っては郷に従う」感覚が養われるのではないかと期待します。

何より、日本にいらっしゃるほとんどのお客様は”I don’t want to be rude.”や”I don’t want to offend you.”といったことをよくおっしゃいます。自分が知らないうちにマナー違反をし、周囲を不快にするということはしたくないと思う方が多いからこそ、ガイドがいてもいなくても適切な振る舞いを伝えられる環境を整えることの意義は大きいものです。

『和食とうま味のミステリー』北本勝ひこ

ジャケ買いした本です。もやしもん可愛いのですが、中身はがっつり麹(こうじ)について焦点を合わせた上で和食の根本に迫ろうとする本です。最近和食について読む機会が多いのでいろいろなものがリンクして面白かったです。

唯一注意点をあげるとすれば、ある程度発酵や酒造りについての知識があると良いでしょう。いきなり本書を読むと装丁の可愛さとは裏腹に、難しく、挫折する可能性があります。

さて、英語でUMAMIとして認知されている味覚に焦点を絞り、日本食と洋食を時折比較しながらなぜ、日本食がこれほどまでに質素ながら豊かな風味を持っているのかの謎を明かしていきます。うまみはアミノ酸の一種で様々なものがありますが、どれも「家畜化」されて得られた麹(こうじ)をもとに食品(特に米や大豆)を発酵させることについて得られたものです。

麹の発展(「家畜化」)と酒造りとは深い関わりがあり、その副産物や、平行するものとして味噌や醤油、出汁が「発明」されたのでした。そのため本書では「酒造り」=「酒造りに理想的な麹の選別」にかなりのウェイトをおいて解説しています。

UMAMIが英語として浸透している以上、通訳案内の現場で聞かれることが無きにしも非ずでしょう。むしろ、自信があるならば、積極的に自分からガイディングの話題とすることも可能です。

私は(おいしい)煎茶や抹茶を飲んでいただいたときに、スープのような味がしませんか?それがUMAMIです。とお話します。澄まし汁とみそ汁の違いがつかないお客様にも、UMAMIの話をすることがあります。そして何と言っても、日本食の奥深さは出汁を混ぜること。カツオ・昆布など様々な素材から出た出汁を混ぜることにより、うまみがさらに増すというのは科学的に証明されていることです。

日本食の特徴は「発酵」という新しい視点を得られた本書でした。醤油・味噌・酢・味りんの欠けた日本食が考えられないからこそ、「典型的な日本食とは何か」という問いに新たな指針を感じます。

と、考えたところで、日本食の中でラーメンは最先端の食べ物なのではないか…という思いにたどり着きました。これからも麺活を頑張ろうと思います。

ポッドキャストを真面目にやり直した話

一時、日英のポッドキャストを配信していたのですが、負担が大きくやめてしまいました。

もしやブログに書いたことベースで喋れば大したことないのでは?と以前思いついてはいたのですが、他にやることに追われていて構想で終わり続けていました。今元気がなさすぎるので、何か手をつけないと崩れてしまう!と自分を奮い立たせるために録音しました。

最近はガイディング力というより、英語力、英語表現力を模索する毎日です。通訳の練習をがっつり取り入れてみたり、負荷をかけた状態で喋ってみたり、自分で言うのもおかしな話ですが、日本人としてはかなり英語が喋れる部類でしょう…。
ただ、一流の人間としてはどうなのか、となると見ている世界が違いすぎます。

追い込みすぎて少し嫌になっているときなのかもしれませんが、その時期がないとブレイクスルーがないのも経験済みなので、もう一段階上へ行くための試練なのだと思って、過ごすしかありません。

ぼちぼちポッドキャストは再開しようと思います。昔のしょうもない(というと先輩方に失礼なのですが)ものは全て消しました。さて、いつまで続くのやら…。音読練習と負荷が変わらないので、ブログを書いてさえいればやめることはなさそうですが。

こちらのページでベースとなった英日をご覧いただけます。是非ご一読ください。
ウォーキングツアーで学校の周りをじっくり堪能その一/Deep Cultural Walking Tour Around the School Vol.1

『イネという不思議な植物』

すっかり稲垣英洋氏にはまってしまいました。以前『パンと麺と日本人』を読んだことに繋がるのではないかとひらめいて、気付いたらレジに並んでいました。

イネの詳しい構造が説明されているのはもちろんのことながら、素晴らしいと感じたのは、3~5章の日本・日本人についての考察です。稲垣氏の洞察の鋭さは他の著作からも感じていますが、植物がその文化へどのような影響を与えているか、という並大抵のものではない考察は勉強になります。

イネがどのように日本の歴史に影響を及ぼしたか、そして日本人の宗教観にまで触れられた本書は、ガイディングにも間違いなく役に立つことでしょう。特に稲荷神社ではこれをそのまま英語で自分の言葉で説明できるようにすれば、内容に事欠きません。

新書ですからすぐに読めますし、読書をする時間があまりない/ガイディングに深みがない/いまいち歴史をうまく端的に説明できないといったお悩みがあるガイドさんには、是非3~5章だけでも読むと大きなヒントとなると思います。もちろん、食事の時にも参考になることでしょう。

このようなジョークがあります。

日本人「ドイツではジャガイモが主食なんだろう、飽きないのか?」
ドイツ人「毎食食べてるわけがないじゃないか!日本人の主食は米だというが、毎日3食米を食べるわけじゃないだろう!」
日本人「いや、我々は食べているぞ。」
ドイツ人「……。」